わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

マッキンゼーとBCGは何が違うのか(最終回-PJは「売る」べきか)

「Client first」という価値観。どのコンサルファームも似たような事を標榜していると思うが、マッキンゼーほど真摯にそれを追求できる環境を構築しているファームはないのではないか。この点においては、残念ながらBCGは2流である、と感じざるを得ない。

 

あるクライアント曰く、「BCGはサプリでマッキンゼーは劇薬」らしい。似たようなことは私がBCGに入社したころからずっと言われており、「本当に何かを大きく変えたいのならマッキンゼーに仕事を依頼する」という事を何度も聞いたことがある。これはなぜなのだろうか。なぜマッキンゼーは劇薬になりえるのだろうか。逆に言えば、なぜBCGは常にサプリなのだろう。

 

長らく自分では答えが分からなかったのだが、マッキンゼーに勤めてみて、これはコマーシャリズム(営利主義)をどのようにコントロールしているか、という事が非常に大きく関係している事象である、と捉えるようになった。(そして後述するように、このこと自体が、マッキンゼー・BCGといった狭い世界のみならず、コンサル業界全体に対する極めて本質的かつ重要な示唆に繋がっていると感じている)

 

マッキンゼーコマーシャリズムを極限まで排除した組織だと感じる。例えば、このエントリーシリーズの「その2:本質的な違い」で触れたように、マッキンゼーのお財布はグローバルだと「推測」されるが、これはあくまで私個人の推測である。なぜならば、そういったお金に関わる情報にはパートナー以上しか触れられず、それが徹底されているからだ(文字通り徹底である)。マッキンゼーの東京オフィスでEMとして働いていたが、私は東京オフィス全体の売上すらしらない。ましてや自分の単価(per diem)など知る由もない。それどころか「(プロジェクトを)売る」という表現すら使う事は許されていない。「売る」と表現する代わりに「clientにimpactをdeliverする」などと表現する。前述のWelcom dinnerの場で、そのことを全く知らなかった私はつい「プロジェクトを売る」という表現を使ってしまい、パートナー含めその場にいた人たちを凍り付かせてしまったのは、今となってはいい思い出だ。

 

上記のように、コマーシャリズムを徹底的に排除することは、東京オフィスを一つの独立した事業体と捉え、それ単体で数字責任を持たせていたら到底できないのではないか?少なくとも私が経営者(=パートナー)だったらできない気がする。オフィスの業績を任されれば、当然売上を気にするし、プロジェクトを「売りたい」と思うだろうし、コンサル事業を行う事業会社として大まかな業績は社員に共有したいと思ってしまうだろう。それが自然な気がする。

 

まさにそれをやっているのがBCGだ。繰り返しになるが、BCGはどこまで掘り下げてみても「コンサルティング事業をうまくやる事」に主眼があり、また思想としてローカルへのカスタマイズを大切にしているため、オフィスの独立性を重視している。BCGの東京オフィスのパートナーは、当然東京オフィスの数字責任を負わされているはずで、オフィスが単体で黒字にならなければ自分たちの首がしまるだろう。結果として、BCGは(マッキンゼーに比べれば)極めてコマーシャリズムの強い組織になっている。以前書いたように、新卒で入社したその日から、「君がクライアントに一日にチャージしてる額XX万円くらいだけど、今日それだけの付加価値だしてるの?」と詰められ、タクシーで小銭を払うのに時間がかかったら、「おせーんだよ。お前を待ってる間にどれだけクライアントにチャージしてると思ってんの?」と言われるわけである。定期開催のオフィスデイでは、当然のようにオフィス全体の業績に加え、クライアントごとにいくらのコミットメントを得ているかといったざっくりした内訳も全社員に公表されていた(東京でもボストンオフィスでも)。それが当たり前だと思っていたし、コンサルという事業を回している事業会社である以上、それ以外の環境があり得るなど想像もしなかった。ある時マッキンゼーからBCGに移ってきた人が、BCGを辞める際に「BCGはコマーシャリズムが強すぎる」と言った事があったが、当時の自分には何を言っているのかよくわからなかった(面白いことに、あとで聞くと、その人はマッキンゼーの中では最もコマーシャリズムが強かった人らしい)。

 

重要な事は、このコマーシャリズムへの意識の強さが、クライアントに提供するコンサルティングサービスの質そのものに非常に大きな影響を及ぼすことである。これはマッキンゼーだから、とかBCGだから、というわけではなく、一般的に成立する真実だ。「お金への意識」は人の行動に如実に、本人が理解している以上に大きくかつ無意識のレベルでも、影響を及ぼす。具体的に書けば、プロジェクトを「売ろう」と少しでも考えた時点で、コンサルタントは以下のような行動をとりがちになる(少なくとも「売る」という概念を全く意識から排除できている状態と比べれば、それら行動をとる確率は格段に高くなる):

  • クライアント企業にとって本質的に重要でない内容でも、何となくプロジェクト化する
  • プロジェクトをとにかくフェーズにきって(内容をある意味水増しし)継続的な契約をとりやすくする
  • クライアントのメンバーに気に入られるべく、彼らの意見を尊重しすぎる
                                    などなど

こういった行動を(無意識にでも)選択してしまう事は、本当に質の高いコンサルティングをクライアント企業に提供する上で、著しく大きな弊害となりえる。

 

マッキンゼーとBCGの両方に勤めて、コンサルティングを究極のサービス業に高め、そして真摯にクライアントに向き合うためには、コマーシャリズムを極力排除したほうがよいと体感をした(少なくとも自分の中ではそう結論づけられた)。マッキンゼーでは、EMはそもそもお金のことは全く把握していないので、それらを気にする必要はない。本当に純粋に「これはクライアント企業のためになるのか?自分達はclient impactを追求できているか」を考える事に集中できるし、そしてそれを常に絶対的な軸としてパートナーやジュニアメンバーと議論をできる環境にある(McK以外に勤めたことがない人間は気が付きすらしないかもしれないが、それはとても幸せな事だ)。仮に自分の売上を気に掛けるようなそぶりをパートナーがとれば、「client impact(彼らのワードで正確に書けば「put client interests ahead of the firm’s」というvalue)の観点からそれはどうなのか」と堂々と議論を仕掛けられるし、それがよしとされているのである。そうやって、どこまでもクライアント企業の事のみを喧々諤々と議論し、出てくる結果はたいていクライアントにとっては耳の痛い内容(だが、無視のできない、ある意味不都合な真実)になるのだ。だからマッキンゼーは劇薬になれるのだと思う。

 

驚嘆に値するのは、マッキンゼーがこういった組織を、10人規模ではなく2万人規模で、10億円規模ではなく1兆円規模で、実現している事である。こんな組織、ほかにあるだろうか?極めて稀有な組織だと考えざるを得ないし、少なくともコンサル業界においてはマッキンゼーだけなのではないか。BCGは確かにコンサル事業を回すのがうまく、(私が社会人になって以来、ここ10年ほど)MBBの中では常に一番高い成長率を達成してきたと思うが、しかしブランド力評価では一度たりともをマッキンゼーを抜かしたことはない。「The firm」と呼ばれるのはマッキンゼーだけであり、その「The」の理由はこういったところにあるのだと思う。

 

この観点、つまり、client impactにどこまでも忠実であり続ける事を組織のDNAに刻み込んでいるという点において、正直に言うとBCGは2流だと考えざるを得ない。このエントリーは、マッキンゼーとBCGを個人視点で比較する事が目的で、優劣をつけることはしたくないのだが、この点だけはマッキンゼーが圧倒的に優れていると感じている。「コンサル事業をとにかくうまくやる事」を目指したが故に、コンサルティングサービスの究極の質の実現が阻まれている、というのは実に皮肉なことに思えるし、逆にマッキンゼーがそのことも見越した上でそういった組織設計にしたのであれば、それは極めてinovativeで、すごいとしか言いようがない。

 

現在日々、SIerやITコンサル系の人と働く機会があるが、彼らは正直コマーシャリズムにまみれており、高い意識をもってコンサルサービスを提供しているとは言い難い場面をいくつも目にしている。マッキンゼーのその思想は、コンサル業界で働くもの全員に大切な教えを示しているように思う。