わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

New Jersey州のイメージは?

コンサルタントにとって言葉は極めて重要な武器であり、細かいニュアンスや、言葉が持つイメージを汲み取れる事は必須である。逆にそれができないと、翼をもがれた鳥のようになってしまう。

 

言葉に対する感度が高い、言葉にこだわりを持つ、といった事は一流のコンサルタントになるためには必須要件である。スライドにのせる一言一言を吟味する事はもちろん、送られてきたメールに使われている文言や「空白(スペース)の使い方」から相手の意図・トーンを推し量ったり、クライアントの発言を別の視点で言い換えて新たな視座を与える、といった事のすべてのベースとして、高い言語能力が求められる。

 

「高い言語能力」というのは、難しい単語や言い回しを知っている、という事ではなく、どちらかというと、言葉の持つニュアンスやイメージ、あるコンテキストにおいて用いた時にどういった受け取り方をされるか、といった事に対する感度が高い、という意味合いに近い。ちなみにこの能力は、戦略コンサルのOJTによって鍛える事ができるものではなく、大学生くらいまでに固まっている素養によるところが大きいと、自分は感じている(もちろん、戦略コンサルのOJTで、その素養が磨かれるという事は大いにある。ただ、素養がない人は磨くものがないので、「言葉の感度」と言われても全く理解できない事が多い)。

 

このように、言葉はコンサルタントにとってまさに武器であり、が故に、母国語でないと付加価値が発揮できない事はほとんどである。なぜなら、母国語以外で、前述のレベルのような言語能力を身につけることは非常に難しいからである。コンサルティングがローカル色の強い仕事(≒日本人には日本人のコンサルタントが必要)というのはそういった背景がある。

 

逆に言えば、言葉をもがれた時、コンサルタントの出せる付加価値は著しく低下する。この事を私はBCG時代、ボストンオフィスで痛感した。東京オフィスでは全く問題なかった自分の英語スライドも、ボストンオフィスでは文言レベルで鼻で笑われ修正されまくるし、言葉がどちらかというとabrasiveであると言われたこともある。スライドの文言であればまだいいのだが、特に個人的につらかったのは、クライアントとの雑談を盛り上げられない事だった。

 

アメリカだろうが日本だろうが、クライアントと雑談をして関係性を築く事は、仕事をスムーズに行う上で重要だ。その時に、例えば相手が日本人で、「大阪出身なんですよ」と言われたら、「あれ、関西弁ではないのですね」とか、「最近吉本色々話題になってますね」とか、「この前たこ焼き食べまして」とか、いくらでもその場の空気に合わせて反応ができるだろう。これは大阪という言葉に対して、あるいは大阪出身の人に対して、イメージができているからで、それは長年日本に住んで大阪の人に接したことがあるからに他ならない。これが、相手がアメリカ人で「New Jersey出身でして」と言われたら反応できるか、と言えば情けない事に自分はできない。

 

そういった事もあり、自分はよく言葉のイメージをまわりのコンサルタントに尋ねたりしていた。その中でよく覚えているのが、New Jersey州のイメージだ。

 

当時私はボストンオフィスで製薬・ヘルスケア業界に特化してコンサルティングに従事しており、毎週のようにNJ州に飛んでいた。NJ州は製薬企業に対して税制優遇措置をしており、またNY州に隣接していて質の高い人材が採れるといった立地の良さから、世界中の製薬企業が拠点を構えている(確か、トップ20社のうち14社くらいNJ州に拠点がある)。なので、製薬業界のコンサルタントはNJ州に行く運命にあり、毎週月曜日は朝4時に起きて6時の飛行機を捕まえて、レンタカーをぶっ飛ばしてクライアント先に行く、という生活をしていた。

 

その日は行きの車が当時お世話になっていたプロジェクトリーダーと一緒で、雑談をしていたのだが、その中で、「NJ州と聞くと、アメリカ人は何をイメージするのですか?」と尋ねた。そしたら、彼が突然車のエアコンを切って外気に切り替え、「Do you smell? This is New Jersey」といったのだ。ちょど走っていた高速のわきには工場のようなものがあり、外気にはその煙のようなにおいがかすかに混じっていたのだが、要するに、「(NY州に隣接した)工業地帯がどこまでも広がっている」というのがアメリカ人の持つイメージらしい。もちろんそれには彼の主観が混じっており、人によって抱くイメージは異なるのだと思うが、日本人が大阪に反応できるように、アメリカ人はNJ州に反応できるのだなと、(当たり前の事なのだが)その時思った。

 

あの外気にかすかに交じっていた工場のにおいは、一生忘れる事がないと思う。