わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

デジタルトランスフォーメーションの難しさ

これまでITとは無縁だった伝統的産業の企業が、AIを含むデジタルテクノロジーを利用して変わろうとする場合、組織運営そのものを変えなければいけない事が多い。そこまで踏み込めるか、が成否をかなり分けると思う

 

デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が登場して久しい。Wikipediaを見ると、ガートナー社の定義が書いてある。それによると、ガートナーは企業内のIT利用を3段階に分けている(以下抜粋):

  1. 業務プロセスの変革
  2. ビジネスと企業、人を結び付けて統合する
  3. 人とモノと企業もしくはビジネスの結び付きが相互作用をもたらす

ガートナーはこの第3段階の状態をデジタルビジネスと呼び、「仮想世界と物理的世界が融合され、モノのインターネット(IoT)を通じてプロセスや業界の動きを変革する新しいビジネスデザイン」と定義し、この改革プロセスを「デジタルビジネストランスフォーメーション」と呼んでいるようだ。

 

曲がりなりにもいくつかの企業のシステム開発を手伝ってきた自分の感覚では、特に伝統的産業に属する多くの企業は、残念ながらまだ上記の(1)の域を出ていないように思う。(2)(3)の必要性を頭では何となく理解しており、取り組もうとしている企業もあるものの、実態はうまくいっていない、または「SNSの積極的活用」といった表層的なことだけに取り組んで「少しはIT化している」と満足しているケースが多いように思う。ちなみに欧米に比べると、明らかに日本企業は(総じて)かなりIT化が遅れているとも思う。

 

なぜ(1)の域を出れないのか。それには市場構造的な問題と、組織的な問題があるように思われる。

 

市場構造的な問題というのは、「IT化によって市場規模は縮小する」という事実をどう受け止めるか、という事である。GoogleAmazonといった企業がここ20年程度で華々しく登場し、時価総額の上位を占めているので、デジタルテクノロジーの普及は市場規模の拡大に貢献していると勘違いされがちだが、実際はむしろ市場規模を縮小させる。例えばAirbnbの登場により、従来のホテルよりは安く泊まれる民泊を人々が活用しだすと、すべての人がホテルを利用していた時に比べて宿泊費合計の規模は小さくなる。もちろんAirbnbは民泊の概念を生み出した事に大きな企業価値を持つようになったわけだが、その陰で多くのホテルがつぶれているわけで、マクロでみれば市場規模を縮小させる方向に作用している(新たな価値はAirbnbに移り、それだけ「効率化された」ととらえる事も出来る)。これはどの市場でも例外なくそうなる。

 

この事実が分かっているからこそ、伝統的企業はDXに踏み出せない事も多い。例えば保険業界。最近ネット自動車保険をテレビでもよく目にするが、ネット経由だと自動車保険が安く買える、という事はこれまで対面で売っていたころよりも市場全体は縮小しているはずだ。これを全ての種類の保険(生命保険や企業保険を含めた全て)についてオンライン化できるか、というと、「技術的にはできるかもしれないが、既存の保険会社にはやる動機がない」という事になる。特に、代理店に対面営業部隊を既に大量に抱えている既存の保険会社が、そんな事に挑戦するはずもない。

 

仮に、ある保険会社が、「どうせどこかの新興企業がやってきて市場を奪われるなら、自分たちでぶっ壊そう」と覚悟を決めて、デジタルトランスフォーメーションに乗り出したとしよう。次にぶつかるのは、システム開発と既存の組織運営の在り方が「水と油」である、という課題である。

 

具体的には、まず伝統的な企業は、エンジニアに魅力的な環境を用意できないので、そもそもエンジニアリングリソースを内製化できない事が多い。なので、外注する事になるわけだが、デジタルテクノロジーを事業活動のコアに据える、という事は、ソフトウェアをその名の通り「ソフト」に、常にぐちゃぐちゃ改修を加えながら、時には実験的な事も行いながら、開発を進める必要性が出てくる。しかしながら、多くの企業の組織運営は(外注企業を使いながら)それができるようになっていない。現実的に一番ボトルネックになることが多いのが予算取りの問題。デジタルテクノロジーをコアに据えるなら、「毎年営業利益の50%をシステム開発に、向こう10年間投資し続ける」といった決断が必要になるが、オーナー企業でもない限りそのような意思決定をする事はかなり難しい。できたとしても、実際には社内稟議があるわけで、開発物単位で予算を確保し進める、といった方法しかなく、「とりあえず向こう1年間、ユーザーのフィードバックを受けながら開発できるものを開発していきましょう」的なのりのアジャイル開発を進める事も難しい。

 

このように、色々な壁が企業のデジタルトランスフォーメーションの推進を阻んでいるように思う。実際デジタルトランスフォーメーションは、コンサルティング企業が産み出した新たなバズワードであって、彼らのマーケティングくらいにしか役に立っていないのかもしれない。。。。

 

(なんかまとまりのない文章になったな)