わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

コンサルティングにPh.D.は必要か

Ph.D.繋がりで、エントリーしておこう。

 

コンサルティングPh.D.が必要か、という問いに一言で答えるのであれば、「必要ない」という事になろう。

 

ただし、これには色々と注釈をつける必要がある。

 

まず、この文面において、コンサルティングとは戦略コンサル(MBBなど)の現場を指しており、一般的なコンサルトラックの人材をイメージしている。また、「必要か」というのは、「クライアントにPh.D.を持っている事を明示的に求められる場面があるか」という事である。

 

コンサルティングと一口に言っても色々あり、また戦略コンサルだけを見ても、担う領域が拡大し続けている。例えば技術コンサル(≒この技術は有望かどうか、補完する技術は何か、プレーヤーは、といった議論を深める)を行う場合、当然その技術にかなり詳しい人間が入る必要があり、そういった人は往々にしてPh.D.を持っている事が多い。しかしながら、(少なくとも)戦略コンサルがそこまで詳細な技術コンサルができるかというと、実際にはできないし、またする事自体をクライアントから期待もされていない。技術に関してはクライアントサイドにいる研究者やエンジニアの方がよっぽど詳しく、また、ファーム内に当該技術の専門知識を持った人間はいるかもしれないが、第1線から外れた段階でその知識は陳腐化し、第1線のクライアントにとって見たら使い物にならない知識である(知識の陳腐化はデジタルでも同じで、以前書いたエントリーでも、Googleから人雇っても使い物にならんと触れたことがある)。前述の技術コンサル的に関わる人物は、大学で研究をしている教授がアドバイザー的にその企業に関わっている、といったケースが多いように思う。

 

ではPh.D.が全く役に立たないかと言うと、自分の経験から一つだけ「間接的に役に立つ」領域がある。ヘルスケアのR&D部門である。直接的にPh.D.の知識が役に立つわけでは必ずしもないが、持っている事で仕事がしやすくなる、のは確かだと言える(あくまで間接的であって、まああってもなくてもいいが、あったほうが馴染みやすい、程度の話)。

 

そもそもヘルスケア(ここでは製薬企業やメドテックをイメージしている)は2つの点においてかなり特殊である:

  1. 原則規制産業である:例えば日本において、製薬企業は自分で医療用医薬品の値段を決める事すらできない。当然自由にパブリックな宣伝をすることもできないし、様々な法律・規則に従って事業を展開する必要がある。面倒なのは、その規制が国ごとに違うという点である。商品自体はざっくり全人類に適用可能なので、必然的にグローバルな展開が必要になるのだが、展開しようとすると国ごとの規制を熟知しなければいけない、という事になるのである。
  2. R&D比率が異常に高い:基本的に医薬品や医療用器具は、技術の塊である。医薬品など、化合物特許が取得された化合物がそのままむき出しで商品になっているようなもので、新しいものを作ろうとすると莫大なR&D費用がかかる。伝統的な研究開発型の製薬企業ではR&D費が対売上高で平気で二けた(10%以上)になる。もちろん製薬業界も「変革期」であり、自社開発でなくオープンイノベーションで、新しいものを自社開発するのではなくM&Aで、といった流れがどんどん強まってはいるだろうから、会社の構造自体も大きく変わっていくのかもしれないが、、、。

 

こういった特殊性の高い業界なので、業界の中にいる人も専門性が高くなり(悪く言えばタコツボ化し)、「他の業界と比較しよう」という意識にはなりにくい。製薬企業のクライアントに、「他業界の事例ですが、、、」と何かをもっていっても全く刺さらないのはそのためであり、必ずその業界内での比較分析という事になる。

 

そして必然的にR&D部門の重要性が高く、その生産性改善うんぬんといったテーマが常に社内に転がっており、そこにコンサルが入る事がある(しかしR&D部門の生産性に関わるテーマは、極論「人をどうやってイノベーティブにするか」みたいな問に帰着し、コンサル雇って解決するなら苦労しないので、あまり賢いコンサルの使い方ではない、、、)。

 

そういったプロジェクトの場合、そのコンサルタントはR&D部門の人々と働くことになるが、彼らはたいていPh.D.を持っているので、Ph.D.を持った人に囲まれる、という事になる。こういったケースでは自身もPh.D.を持っていると格段に馴染みやすくなることは間違いない。専門用語が(勉強しなくても)大体理解できる、という利点はもちろん、Ph.D.を持っていると単純に「仲間とみなされやすい」という事が起こる。鹿児島出身の人が東京に出てきて、鹿児島出身の人に会うと「おー」ってなるのと同じ感覚であり、Ph.D.を持った研究者はMBAを持っているコンサルより、Ph.D.を持っているコンサルの方が話しやすいのだ。

 

こういった事情も影響し、かつヘルスケアが一大産業&高利益率が故にコンサルヘビーユーザーという事もあり、ファーム内でPh.D.を持った人はヘルスケア村に圧倒的に多い気がする。まあそういった人たちが、ヘルスケアの仕事だけをしていて幸せか、というのはまた別の観点であり、また別のエントリーで機会があれば書いてみたい