わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

SaaSの価格を決める際の考え方

SaaSを開発している企業にとって、価格設定は必ずぶつかる悩みポイントであるが、そこが上手くできるかは会社の成長にモロに影響する。色々な視点があるものの、幾つか抑えておくべき考え方があると思う。

 

コンサル系のネタが多くなりがちなので、たまにはそこから離れて、今の自分の仕事に関わることを書こうと思う。

 

システム開発の上流工程(~要件定義まで)のマネージメントを主な生業としているが、最近はベンチャー企業に関わる事が多い。特に何らかのSaaSを開発しようとしているベンチャーのプロジェクトが続いている。

 

SaaSを開発する企業にとって、その価格設定は収益に直結する極めて重要な要素であるが、初めからうまくできる会社は少ない。確かに価格を決める上で色々な視点を織り込む必要があり、難しいのだが、複数のプロジェクトに関わる中で、自分なりに抑えておくべき考え方がいくつか整理できたので、まとめておきたい:

 

1.顧客のとっての価値が何かを理解して、それに沿って設計する

最も重要な事の一つは、「顧客が自社のサービスのどこに価値を感じているか」を理解し、それに沿った価格体系にする事だと思う。

 

例えば、とあるサービスは最初、シンプルにアカウント数に比例した価格体系にしていたが(例:1アカウント月額1万円)、その結果、大半の顧客は「そのサービスを触る可能性のある一部社員」に限定してアカウントを作成し、全社員が気軽にそのサービスを利用できる状況にはならなかった。そこで、価格体系が依存する変数を「その月に実際にサービスを利用したユニークユーザー数」に変えたところ、すべての社員にアカウントが発行され、より気軽にサービスが利用できる状態になり、結果として収益も上がった。この場合、顧客にとっての価値はアカウント数そのものではなく、当然サービスの利用なわけで、それに沿って従量課金にすべきだった、という事だ。

 

この例のように、顧客にとってのサービスの価値は何か、言い換えれば、どこで課金されると顧客の納得度が高いか、という事をきちんと整理し、それに沿った価格体系にする必要がある。

 

2.公開・非公開関わらず、シンプルに、できれば3~4プランくらいにする

SaaSの価格は公開されないことが多い。おそらく大部分(7割以上)のSaaS企業は価格を公開していないと思う。最初から価格を公開しているのは、価格が選定基準として重要になるケース、具体的には、SaaSの普及率が高くコモディティー化が進んでいる領域(例えばCRM)、又は顧客に(価格センシティブな)中小企業が多い場合、に限られているように思う。基本的には価格を公開しない方が、ディスカウントの対応が柔軟にしやすかったり、顧客ごとにアプローチを変えることができたり、とメリットが多い。

 

しかし公開・非公開に関わらず、料金の考え方はシンプルに、できれば最初は3プランくらいにしておくとよいと思う。非公開の場合、いくらでも裏で複雑にできるじゃないか、と考える人もいるが、そもそもSaaSで手離れよくスケールさせたいわけなので、営業工数も短くなるように、営業マンがぱっと顧客ごとに料金を出せるようになっていることが望ましいと思っている。難しいエクセルをこねくり回さないと料金一つ決められない、となると単純に契約をクローズするのが苦痛になりがちだ

 

3.料金プランの区別の軸はペルソナで切ると分かりやすい

昔は料金を公開しているSaaSのホームページを見ると、機能一覧見があって、料金プランごとに〇✖がつけられているものが多かった。この料金プランだとこの機能がつかえないのかー、とか言いながらユーザーは選んだものだが、それは既にかなり古い。というかそもそも分かりにくい。

 

なので、料金プランはペルソナごとに分けるとよい。例えばマネーフォワードの料金プランを見ると、ちゃんと、「小規模の法人でお得に利用したい方」と、「複雑な会計業務や請求書発行の多い法人の方」というように分かれている。非公開の場合でも、こうして整理しておくと、営業の社員でもぱっと決めやすい。

 

4.安くし過ぎず、また状況によってダイナミックに変える勇気をもつ

企業は、ある程度の規模になるとSaaSの料金よりも機能を重視するようになる。特に収益の大半を占める大手企業になれば、それは顕著だと思う。月額数万円の違いをきにするより、何ができるのかを見ているので、機能に満足すればお金は払ってもらえるものである。なので、(自社のSaaSのターゲット顧客によるが)安くし過ぎないという事は大切だ。

 

特に最初は心理的に安くしがちである。スケールさせないと、と思っているから、価格を抑えてでも使ってもらいたいと。だが、その結果、企業視点では最も切りやすい価格帯に落ち着いてしまったり(~月額40~50万円程度以下だと、切りやすくなるらしい)、その後価格を上げにくくなってしまったりするので、注意が必要。

 

また料金プランはコロコロ変えるものではないものの、会社のフェーズによってダイナミックに変えるべきだと思う。新しい機能が追加されてどんどん高機能になっているのに価格を据え置いているようなケースがたまに見受けられるが、顧客価値が高まっているならさっと料金プランを変えて、どんどん収益を伸ばしていこうとするマインドが大切だと思う。