わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

東京オフィスとボストンオフィスの違い

BCGの東京オフィスとボストンオフィスは、人がまとっている空気感とか価値観は非常によく似ていたが、行動様式には違い幾つかあり、最初戸惑った

 

戦略コンサルティングファーム(例えばマッキンゼー・BCG・ベイン)にはそれぞれカラーがあると思う。カラーとは、ふわっと言えば社員がまとっている空気感のようなものであり、より具体的に言えば仕事をする上で大切にしている価値観だ。そのカラーは、グローバルで非常によく統一されていると思う。グローバル展開している一般の事業会社では考えられないくらいのレベルで。

 

自分がそのことを体感したのは、BCG時代にボストンオフィスにトランスファーした時だ。新卒として入社し、東京オフィスで2年半過ごした後にボストンに行ったのだが、ボストンに行っても基本的に前述の「カラー」は明確に一緒だなと感じていた。ただし、下記のように、やはり行動様式にいくつか具体的な違いがあり、最初かなり戸惑う事になった。

 

ちなみに、BCGはグローバルファームと言えどもかなりオフィス間の違いはかなり大きい方だと思う(その差が極小なのはGlobal One Firmを明示的に掲げるマッキンゼーだろう)。というのも、BCGは各市場でローカライズすることを大切にしており、各オフィスがきちんと自立をして(ある意味「独立国家」として)、独自のカラーを出して運営する事を許容しているためだ。そのため、自分がボストンにトランスファーした際も、テクニカルには一旦BCGの東京オフィスを退職し、退職金を東京オフィスからもらって、ボストンオフィスに再雇用される、という形式をとっている。特に東京と、アメリカの東海岸は明確に「システム(と表現される)」が違うので、そのような形となる。

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【違い1】

東京では仕事が「ふってくる」が、ボストンでは自ら見つけなければいけない

東京オフィスでは、スタッフィングから電話をもらった時点でアサインが決まっており、社内で色々な人と話して自ら案件を探す努力は、語弊を恐れずに言えば「してもしなくてもどちらでもよかった」。もちろん積極的に社内で自分を売り込むことは大切だし(そう教わるし)、自分がどうしても入りたい(あるいは入りたくない)案件があるとか、一緒に働きたい人がいる場合は、それを行わないと希望通りにはなりようがないのだが、例えそれをさぼっても東京オフィスでは仕事がふってきていた(なので、端から見て仕事ができない人でも案件に入れていた)。もちろん、東京オフィスがグローバルで見てもかなり成長率が高かった時期に在籍していて、オフィス自体が非常に忙しかったという事も大いに関係あるだろうが、感覚としては仕事は「ふってくるもの」で、今思うとかなり優しい(ある意味ゆるい、楽な)オフィスだった。

 

しかしボストンオフィスでは、積極的に自らを売り込み、自分のreputationをかなり意識的に形成していかないと、そもそも案件に入れなかった。オフィスがどんなに忙しく、アサイン可能な人が限られていても、アメリカ人のプロジェクトマネージャーは自らのチームに知らない人間をアサインしたがらなかった。なので、仕事ができない、というreputationが一度たってしまった人間は本当にいつまでも案件に入れず、したがって成長もできず、一方でいいreputationの人はまさにひっぱりだこで、いくつもの案件から選ぶ権利が常にあった。この社内がreputationに依存する度合いというか、ここからくるセレクション圧力、というものは明確にボストンオフィスの方が高かった。

 

これは本質的には、オフィスの仕組の違いというより、アメリカ人が日本人よりもはるかに「政治的」な気質を持っている事に原因があると理解している。例えば、入試を比較しても、日本人は東大であろうが入学試験一発勝負で、ある意味非常にフェアだが、ハーバードに入ろうと思うとテストの試験だけでなく「どの教授がどんな推薦状を書いているか」といった事含め複数の要素が加味され、ある意味非常に曖昧に評価される。このようにアメリカの組織では、人と人とのつながり、その人がまわりから得ているreputationが非常に重視され、それに基づいた行動様式になりがちだ。ボストンオフィスでも、パフォームし、いいreputationを形成していく事自体が仕事をする上で重要な能力とみなされ、up or outはそこから自然に派生してくる圧力という感じだった。なるほど、up or outとはこういう事なのかと本当の意味で理解したのは、東京オフィスでではなく、ボストンオフィスでだった.

 

これが最大の違いで、自分の行動様式を変えるのに時間がかかったが、逆に言うと残りの違いは全てテクニカルな些細な点で、比較的すぐになれる事ができる。

 

【違い2】

ボストンオフィスではプロダクションと接点がない

日本のクライアントは、非常に紙の資料が好きであり、それこそがコンサルの納品物なのだから質が高くなければいけないとどこかで思っている。加えて日本人はアニメーションが好きで、スライドにポンチ絵が多い(過去のエントリーで、アメリカ人はポンチ絵は"childish"であり、モジモジしたスライドが好きだと触れた記憶がある)。結果として、東京オフィスのプロダクション(つまり手書きスライドをPPTにおこしてくれる部隊)は規模がかなり大きく、仕事の質は極めて高い。

 

一方で、ボストンオフィスは、プロダクションがほぼない。人数規模で言えば東京オフィスの20分の1もないくらい。ポンチ絵を多用するなど、こったスライドもあまり作らないので、皆ほぼ自分でスライドを作っていた。フォーマット修正など必要な時は、全社共用で抱えているインドにいる部隊を活用していた。

 

【違い3】

ボストンオフィスでは秘書さんともあまり接点がない

東京オフィスでは、マネージャー以上のテニュアの人(特にパートナー、プリンシパル)の時間を抑えるには、基本的に秘書さんを通じて行う事が大半だった。カレンダーが管理しにくくなる、と秘書さんを通さないと怒られるケースが多々あった。一方で、ボストンオフィスでは本人と直にやり取りをして、予定を入れることが圧倒的に多かった。さすがにパートナーになると、ccで秘書さんを必ず入れていたが、それ以下のテニュアの人とは直にやり取りし、その人が自らカレンダーに予定を入れていた。当たり前だが、自分のカレンダーは自分で管理していたのだ。というか、ボストンオフィスにきて初めて、東京オフィスの秘書さんのレベルが「高すぎ」なだけであり、東京オフィスのオペレーションが世界的には異常なだけだと気が付いた。思えば、海外から東京オフィスにきたコンサルタントも常に、東京オフィスの秘書さんスゲー、と言っていたので、東京の秘書さんがすごすぎるのだと思う。

 

【違い4】

ボストンオフィスではトラベル部隊がいる

東京オフィスでは、出張の手配は基本自分でしていたが、ボストンオフィスでは24時間連絡が取れる(正確にはアメリカ国内の時差をうまく利用して24時間近く対応できるようにしている)専任の人がいた。その人に電話すれば社内規則にのっとったホテルや航空チケットを取ってくれた。これはトラベルが多いアメリカならではかもしれない。ボストンなど冬に飛行機が遅れたりした場合など、チケット手配自分でやるには現実的に辛すぎるし、コンサルタントが時間を使うべきところでは確かに全くない。

 

というかこのレベルで違いを書きだしたら長くなってつらくなってきた。。。といっても、実質的にこれくらいかな、違いは。このへんでやめておこう。