わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

知識と知恵

年末にExマッキンゼーの岡田祥吾さん(残念ながら直接の面識はない)のツイッターの投稿が炎上しているのを見た。投稿内容は下記のようなものだ:

マッキンゼーで学んだのはビジネスの方法でも業界知識でもない。それは学ぶ力だ。一ヶ月間死ぬ気で一つのことを勉強すればその道で10年間やっている人よりも深い知識をつける事も不可能ではない。

 

曲がりなりにも戦略コンサルをやっていた私から見ると、「そんな事当たり前じゃん(=当然の事を言っている)」と思える内容で、正直色々叩かれているのを見て、ネットって怖いなと思った次第だ。

 

まず前提として、「知識」と「知恵(とここでは呼ぶことにしよう)」は明確に区別しておきたい。知識とは、「誰もが事実として共有できる情報」とでも言うべきもので、コンサル的に言い換えれば「ファクト」だと思う。一方で、知恵とは、その知識に個人の判断を加えて加工されたものである。つまり、知識が昇華されて知恵になる。

 

これは料理に例えると分かりやすい。素材の種類(肉、野菜、など)や調理法(揚げる、焼く、煮る、など)はファクトであって、知識として吸収できるものである一方で、それらの素材・調理法を組み合わせて調理した結果である料理そのものは、料理人の経験や感性が織り込まれた知恵と捉える事ができる。

 

こう考えた時、その道で10年やっている人の「知識」を1か月で身に着ける事は(本気を出せば)たやすいだろう。それどころか、第3者は、10年やっている人が気にも留めなかったファクトでも、選別することなく記憶してしまうので、結果として10年やっている人より「深い」知識を身に着けることになるだろう。

 

むしろ、本当に戦略コンサルの視点から言うと、どのようなプロジェクトでも、一か月じゃなくて2日程度でキャッチアップする事が求められており、プロジェクトの論点に関わる部分に限定してではあるが、それくらいのスピード感で基礎的なファクトは理解する必要がある。その上でクライアントと対峙し、必要なファクトをさらに引き出していくという感覚だ。

 

一方で、知恵については当然のことながら一朝一夕には身に着けることが難しい。しかしながらコンサルティングの場合、大げさに言えば、その知恵に至った人の経験や感性(=コンサルティングのコンテキストでいえば業界の慣習など)を書き換え、新しい知恵の創出に貢献する作業なので、その部分にとらわれる必要は必ずしもないのだ。

 

なので、上記ツイッターの内容は、コンサルタントにとっては違和感のない内容なのではないかと思う。

 

悲しいなと思うので、多くの10年選手の社会人と話していて、知識を知恵まで昇華できている人、そういった癖がついている人が実に少ない事だと思う。毎日自分が接している事に対し、「なぜそうなるのか」、「その背景に何があるのか」といった事を自然と考えられる人というのは想像している以上に少なく、むしろ「10年もこの業界にいてなに考えてたんですか?」と感じる人が多い。こう書きながら、これは自分に対する戒めでもあり、自分も常に小さい事でも学び続けられる人間でありたい。