わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

経営コンサルの「専門性コンプレックス」問題(最終回)

前回までのエントリーで、経営コンサルティングファームで働くコンサルタントがしばしば陥る「専門性コンプレックス」は誤解が原因である事、日本とアメリカではかなり事情が異なる事などを述べた。もう一つ、最後に触れておきたい要素として、業界特異性がある。

 

日本においては、ジェネラリスト型のコンサルタントが多いものの、実際には専門性の度合いは関わっている業界によって差異が見られる。分かりやすいのはヘルスケア(主に製薬・メドテック企業)で、どのファームにおいてもヘルスケアは「村」になりやすい。つまり、ある程度固定されたメンバーで案件を回していく(言い換えれば、一度案件に関わると囲われやすい)環境になりやすい。これは、医薬品・医療機器の市場が特異的であり、製薬企業やメドテックの案件をこなすには「経営コンサルティングの文脈においての専門性」だけでなく、かなり深い業界の専門的知識が求められる事が大きな要因である。医薬品の市場と言っても、各国で規制も全く異なるので(例えば、日本では薬価は実質的に国が決めており規制産業である一方で、アメリカは自由市場に近い)そういった事は当たり前のように精通していないと、コンサルティングなど到底できないのである。

 

この業界と専門性の関係について、個人的に興味を持っているのは、デジタル革命が全業界を現在進行形で襲っている事の影響である。

 

大分前のエントリーでGAFAは経営コンサルをあまり使わないことについて書いた。これは、誤解を恐れず、ものすごく端的に書けば、下記2点が原因だと思う:

  • 経営コンサルタントが、GAFA内部の人以上の知見を提供できない
  • IT業界においては「実践」に意味があるので、知見の提供に価値を感じない

 

まず1点目について、デジタル周りは異常に進化が早く(つまり現時点の知見がすぐに陳腐化する)、また関係する領域も非常に広い(要するにオンラインになっているモノすべてが含まれる、と考えられる)。なので、最新の知見を持ち続けること自体が非常に難しい。加えて、デジタル領域において、意味がある「生きた知見」というものは実際に事業を実践する中でしか学べない側面があり、自らECサイトやらSaaSやらを運営していない経営コンサルティングファームコンサルタントが生きた知見を持つことは難しい。

 

このような背景があるが故に、以前書いた通り、

マッキンゼーやBCGも、Ex-GoogleやEx-Amazonを採用し、知見を社内に持とうと努力はしているが、悲しいかな、「Ex」になってしまった瞬間にその人の知見はどんどん古くなり陳腐化していく。それを持って、GAFA内部の人をも驚かせるような深い技術的・業界動向的示唆を出すことは不可能なのであり、結局はGAFAの中にいて思慮深い人の方がはるかに未来の予想を正確にできる、という事になる。

のである。

 

また2点目について、IT業界においては、経営コンサルタントが何か提案したとすると、「じゃあやってみてよ」と言われるのがオチだ。「このサービスが伸びるのでやるべきです」と仮にGoogleの役員に対して提案しようものなら、「そんなに言うなら、エンジには出すからすぐやってみて。それが証明できたらフィー払うよ」と言われるだろう。彼らは実践を重視しているが故に、知見の提供に価値を感じにくいのだと思う。

 

こういった環境の中で、現在経営コンサルティングファーム各社は、(言い方は悪いが)それほど高度な、生きた知見も必要としない、全くデジタル対応できていない伝統的企業に対して、「デジタルトランスフォーメーション」というふわっとしたバズワードを設定して、デジタル改革を推し進めるプロジェクトを(傍から見れば)異常に高い値段で売りつけたりしている。しかし、今はそれでよいとしても、こういった動きは、デジタル革命が進み、伝統的企業が新興IT企業群に駆逐、又は伝統的企業自体が最先端のIT企業に脱皮した後は、どうなるのだろうか?その時経営コンサルタントはデジタル領域において、どのようにサービス提供しているのだろうか?BCG Digital Venturesのように、リスクをとって伝統的企業のサービス構築を支援しつつ、自分たちでサービス運営する事を通じて高度な知見を溜めたりするのが正解なのだろうか。

 

こうした、デジタル革命の経営コンサルティングファームへの影響、彼らの専門性の持ち方の変化、また、それに対応すべく色々な試行錯誤が繰り広げられている(そして今後も繰り広げられていく)ことは興味をもって追っていきたいなと思う。