わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

経営コンサルの「専門性コンプレックス」問題(その1)

マッキンゼーやBCGといった、いわゆる経営コンサルティングファームで働くコンサルタントは、しばしば「自分には専門性がないのではないか」という悩みを抱く。新卒入社の場合は、2~3年目あたり(つまり仕事のやり方を覚え、ある程度自分でアクセルを踏んで仕事を回せるようになったあたり)からこういった悩みを持つようになり、中にはこれが原因で転職をしていく者も少なくはない。この経営コンサルタントの「専門性コンプレックス」問題は、実は色々な要素が絡んでいる複雑な問題だと認識しており、包括的にうまく説明できる自信が全くないのだが(今頭の中で整理しようとして失敗している、笑)、少なくとも絡み合う個別要素については書けそうなので、一度考えをまとめてみたいと思う。

 

まず、考えるべき要素は、少なくとも3つあると思っている:

  1. 誤解:世の中でいう専門性と経営コンサルティングというコンテキストにおける専門性がいっしょくたにされている
  2. 日本の経営コンサルティング環境:専門性問題は日本と海外で大分事情が異なり、特に経営コンサルティング業界が最も発達したアメリカ(おそらく日本より20年以上は進んでいる)では専門性を持っていることが必須に近い
  3. 業界の地殻変動:現在進行形で、全業界においてデジタル革命が進んでいるが、例えばこのデジタル分野は経営コンサルタントでも深い(というか具体的な)知識と高度な専門性を持ち合わせていないと質の高いコンサルティングが提供できず、こういった流れが「経営コンサルタントの専門性」のあり方を変えていく可能性がある

 

まず1点目について。

新卒2~3年目のジュニアコンサルタントが、「自分には専門性がないのではないか」と悩み始めるそもそもの原因は、一般的なイメージでいう専門性と経営コンサルティング業界における専門性を混同してしまっていることにある事が多い。

 

一般的に「専門性」というと、例えば特定の業界の特定の機能(マーケティング、研究開発、など)について、実務レベルの事も含めて深く理解している状態を想像するのだと思うが、経営コンサルティングという文脈における専門性とはそういった事ではないのだ。

 

別の言い方をすれば、専門性のなさを悩んでいるコンサルタントは、「経営コンサルティングを通じて自分がある業界の専門性を身に着けると、その業界に実際に入っていってもうまく事業を回せる」と勘違いしてしまっているのだ。逆に言えば、「ある業界や特定の機能に深い知見がある人が経営コンサルタントとして価値を出せるかと言われれば必ずしもそうではない」という事だ。

 

多くの現役コンサルタントがこの点を誤解(とここでは呼ぶことにしよう)しているがゆえに悩み、またこの誤解が広くはびこっているがゆえに、中途入社で経営コンサルを目指す人が「自分は前の事業会社でXXな経験を積み、深い知見があります」とアピールをしたりするわけである。以前質問を受けた際、「経営コンサルタントという仕事で成功するかどうかは地頭がいいかどうか、つまり想像力があるかどうかが重要で、それがない人は極論何をやってもコンサルタントとしてはダメだ」と言い切ったのも、経営コンサルティングという職業には独特の仕事の仕方・仕事観があり、専門性の考え方があり、過去の経験などよりもそれに適合できるかが重要だ、といった考えが背景にあってのことだ。

 

では、経営コンサルティングにおける専門性とは何のか。これがまた深遠なトピックで説明に困るのだが、ふわっと書けば、

  • 幅広くビジネスの常識を身に着けており、
  • あらゆる情報を経営課題という文脈で考える事ができ、
  • それらの情報について自分なりの考えを持てる

ことである。あまりにふわっとしていて伝わらないかもしれないが、例をあげれば大前研一さんや御立尚資さんは、例えばテレビの生放送で、司会者に突発的にある業界のある事象について意見を求められたとしても、経営課題というコンテキストでその事象をどう解釈できるかについて流暢に述べるだろうし、その姿を容易に想像できる。それが経営コンサルティングにおける専門性が具現化した状態なのだ。

 

ここまで書いて、あーこれ伝わらないな、うまく書けないな、と思って困っていたら、実は尊敬する現役コンサルタントのブログで、偶然にも全く同じトピックでエントリーがあり、具体的にはそちらを読んで頂ければと思う(すごい偶然だ、苦笑)。

www.tokyo-harbor.com

 

まあ要するに、「専門性がない、どうしよう」と悩むのではなく、「経営コンサルはそういうものだ」と割り切ってしまったほうがいいのだと思う。

 

ここまでで大分長くなってしまったが、2点目以降、アメリカではだいぶ事情が違う、といった事はまた次回のエントリーで書くことにしたい。