わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

吉本興業のわちゃわちゃは実に日本的である

コンサルタントを、特にトップファームに所属しながらやっている場合、一般の事業会社に勤めている会社員と比べて、実に多様なビジネスシーンに遭遇する事になる。

 

事業会社の大半の人はコンサルタントという職業の人間が嫌いなので(少なくともネガティブな印象を持っている人が多く、「好き」と明言する人にはほぼ出会ったことがない)、キレられる事ももちろんあるし、そもそもミーティングの時間をとってもらえない事すらある。一度、パートナーが朝9時からのステコミに遅刻し、ずらりと並んだ数兆円企業の役員が机を叩きながら怒る、というシーンも見たことがある。またクライアント先で競合とぶつかることもたまにあり、BCG時代に一度マッキンゼーとhead to headでぶつかって、結局BCGのプロジェクトが骨抜きにされて終わった、という経験もしている(マッキンゼー様はやはりポジショニングが違うのだ、とその時体感)。

 

その中でも、これは比較的まれなんじゃないか、と思った経験は、プロジェクトを仕切ってくれていたトイメンの人が突然クビになるというものだ。BCGのボストンオフィスにいた頃、とある財団の戦略プロジェクトに入っていた時にそれは起こった。プロジェクト開始から3週間くらいたったころだろうか、トイメンのAさんがクビになった、という連絡をその直属の上司のBさんから受けたのだ。「彼(Aさん)はクビにしたから、このプロジェクトは今日から僕(Bさん)がオーナーになるから」と。原因は、そのプロジェクト自体とは直接関係ないところで、AさんがBさんを飛ばして、さらにその上の財団のトップにとあることで文句を言いに行った事が原因らしかった。つまりレポートラインを飛ばして、上に直訴してクビになったのだ。

 

コンサルタントは組織を設計することも多く、そういった場合大抵組織図をどこかのタイミングで書く。組織図とは、「箱」とそれらを繋ぐ「線」から構成されており、箱の中には人の名前が入り、各線はレポートラインを示しているわけだが、その線の重さが日本とアメリカでは全く異なるように思う。

 

狩猟民族であるアメリカ人の組織においては、線は絶対であり、それ以外にはあり得ない。たとえ財団という非営利に近い組織であってもそれは同様で、その線を破った瞬間にAさんのように問答無用でクビになるのである(そして当然、そのことをかわいそうとかやり過ぎだ、という声がまわりから上がる事すらなく、当然のこととしてその後は何事もなかったかのように物事が流れていく)。

 

一方で、日本では、ラインは存在するようで存在しない。一応レポートラインは存在し、報告書はその上司に上げているかもしれないが、「社長に直訴だ」みたいな事はよく起こるし、それでクビになる事はない。むしろそういった行動をする人を、行動力があるとかっていって褒めたりする。あるいはラインがあいまいな事がネガティブに作用するケースとして、上司が自分だけ会議に出て判断すればいいものを、不安なのか寂しいのかなんなのか、部下まで呼ぶので、会議に部署全員が参加していて、何が何だかわからないといった場合がある。一言も発言しない人が10人くらい参加している、というよくわからない会議が開催されているのがザ日本である。

 

という視点で見ると、今回の吉本興行のわちゃわちゃも実に日本的で、平和だなと思う。売上500億円を超えている企業の社長が、一回の芸人から突っ込まれ、わちゃわちゃやってるって、農耕民族の日本人らしいやりとりで、むしろほほえましく思う。