わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

戦略コンサル業界の変遷と、デジタル時代における彼らの戦い方仮説

戦略コンサル業界全体は、大まかに、戦略構築支援 ⇒ 実行支援 ⇒ デジタルトランスフォーメーション支援と変遷してきたように見える。IT・AI革命が各業界の隅々にまで浸透していく中で、彼らはどう戦っていくべきなのか。

 

戦略コンサルが、猫も杓子もデジタルに走る理由」で触れたように、近年戦略コンサル各社はこぞってデジタルケイパビリティ―を強化している。業界全体がIT革命の波に対応しようとしているが、そもそもこの業界はいくつかの大きな変化を遂げてきているように思う。以下のチャートにざっくりと自分の頭の中を書き出してみた(思考がクリスタライズされておらず、ボヤっとしたできになってしまったのが残念だが、、、)。左側にクライアントニーズの変遷が、右側にそれらに対して戦略コンサルが提供しているケイパビリティ―を並べてあり、伝統的企業(例:パナソニックやらトヨタやら、いわゆるナショナルブランド)と戦略コンサルをあまり使わない新興IT企業(例:GAFA)に分類した。

 

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図1:戦略コンサル業界全体の動き

【伝統的企業のニーズの移り変わり】

①:企業戦略の構築(1960年代~1990年代まで)
まずは、1960年頃から始まった、企業戦略が重宝された時代。60年代と言えば、BCGがプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)を生み出し、戦略経営の父と呼ばれるイゴール・アンゾフが『企業戦略論』(1965年)を発表した時代だ。企業経営に戦略という概念が持ち込まれ、経営者はこぞって戦略を求めて戦略コンサルタントの話を聞きたがったのだろう。BCGはいち早く東京にオフィスを開設し(66年)、日本型経営を分析して、その知見を世の中に提供したりしていた。戦略コンサル各社は、業界の知見や最新の情報を集め、分析し、戦略を練ってはクライアントに提供した。

 

(戦略に対するニーズはもちろん今でもあり、「戦略系プロジェクト」は常にファームの中ではいくつか走っているものだが、全体でみればインプリ系(事業の実行支援)のプロジェクトが大半を占めるようになっている)

 

②:事業の実行支援(2000年頃~)

2000年頃に入り、日本市場でも戦略コンサルが世の中にだいぶ認知されてくると、クライアントのニーズも戦略からインプリ(事業の実行支援)に変化してきた。「コンサルタントは提案するだけで、結局何もしてくれない」という顧客の不満があった。というよりも、正確には戦略コンサル側が、規模を拡大するために、「実行支援もしますよ」と持ち掛けたのが最初なのかもしれない。戦略は各社数年に1回策定すればよく、戦略だけやってても規模が追及できないから、実行支援まで請け負って、収益源の拡大を図ったとも解釈できる。

 

このころから戦略コンサルは(正確には自分がよく知るBCGはだが、、、笑)、新卒を大量に採用するようになる。それまでは中途採用中心だったが、事業規模が拡大するにつれ、インプリケースが増えるにつれ、新卒採用を拡大し、「従順で動ける若手」を確保したかったのかもしれない。

 

このころ業界の中でも大きな議論があった。戦略コンサルなのに、インプリをやるのかと。BCGの社内でも「戦略コンサルがインプリをやる意味はあるのか?」といった質問がグローバルの代表の前で投げつけられる場面があったのを覚えているが、その時の解答は「インプリをうまくやるには賢くなくてはならない。実は我々の強みがよく活かせる仕事なのである」というものだった。

 

③:デジタルトランスフォーメーション(2010年代半ば~)

自分がまだBCGにいた頃、つまり2010年代の前半には、デジタルケイパなどというものは社内にほとんどなかった。むしろ戦略コンサルが唯一会話すらできない部署が、IT部門だという感覚があったくらいだ。そこから各社、ものすごい勢いでデジタルケイパビリティ―の構築にひた走っている。自分たちのメインクライアントである伝統的企業がIT革命で取り残されている、かつGAFAのような新興IT企業にはうまく入れていない、という事に対する危機感があったのかもしれない。

 

【新興IT企業のニーズ】

一方で、90年代後半から登場し、一気に世界の時価総額上位の地位を奪った新興のIT企業群は戦略コンサルをそれほど使わない。その理由は前回書いたとおりだが、彼らが最も求めているもの、つまり、④デジタル技術に対する深い洞察⑤デジタルサービスの企画・実行力を彼ら以上に提供できない事が要因だと考えられる。もちろんGAFAも大企業であり、大企業が直面する様々な問題を抱えているわけで、伝統企業同様、⑥一般的な組織課題への対応力を得るために外部のコンサルに頼ったりすることはあるが、あくまで限定的スコープにとどまるプロジェクトの発注になるし、また彼らもスマートなので、「結局欲しいのは地頭のいい人間だから、プロジェクトフィー払うより、卒業生採用しよう」という動きにつながるのだと思う。

 

 

こうしてみると、このデジタル革命の時代、結局戦略コンサルは(少なくとも直近は)伝統的企業を相手に商売をしていくように思える。自社内にイケてるエンジニアやデザイナーを抱え込み、「デジタルトランスフォーメーション」というバズワードを生み出すことでデジタル革命の波に乗り遅れるなと経営者の危機感をあおり、「今のSIerよりはましですよ。Waterfall型よりはアジャイルに開発しないと」といった事を言って、最終的にはSIer以上に高いフィーでデジタル系のプロジェクトを請け負う(同時にシステムコンサルや実際の開発の仕事というのは、これまでの戦略コンサルのケイパからは大きく離れた場所にあり、構築に苦労することも想像されるが、、、)。しかし、これが彼らが生き延びれる道なのだろうか?まだ自分の中でボヤっとしているのだが、仮に自分がマッキンゼーを運営する立場にあって、デジタルを推し進めるなら、デジタルトランスフォーメーションというバズワードを使いつつ、下記の2点を明確に狙っていくと思う:

(A)伝統的企業とSIerの仲介役

(B)IT企業の買収

 

(A)はまさに自分が今JQでやっているような仕事。つまり、デジタルトランスフォーメーションを仕切る、いわゆるPM役。これは明確にニーズがあり、戦略コンサルタントのケイパにものすごくフィットする。不幸な事に、SIerにはプロジェクトを仕切るという事がどういうことかをまともに理解したPMがおらず、これが伝統的企業によるシステム開発を大きく阻害しているように思う。ITの事がよくわからない企業の人が、ふわっとした要求をうまく形に落とす能力が著しく欠如したSIerのPMと出会うと、ろくなシステムやサービスができない、というのは容易に想像できる。戦略コンサルがわざわざ自社内に開発部隊を抱えるまでもなく、このSIerとの繋ぎをいい感じでやるだけで、ものすごく付加価値がでる。

 

より本質的で面白いのは(B)だと思っている。新興IT企業群は今は戦略コンサルを使わないかもしれないが、彼らは生き残りのために潤沢な利益を活かして必死に買収を繰り返す。また伝統的企業においても、デジタルトランスフォーメーションというよくわからない全社改革をするよりも、小規模なIT企業をうまく連続して買収し、デジタルケイパを構築していく方がROIがはるかに高いと考える。この買収部分を戦略コンサルが仕掛ける余地は大いにあると考える。幸いにして、世の中に存在するスタートアップを含むIT企業をグローバルで網羅的に把握することは未だに困難で、特定分野で高い技術を持った企業をピンポイントで見つける事も容易ではない。そして、それらIT企業をデューデリすることも、通常の企業と違って難しい事が多い。売上もたっていないスタートアップの企業価値をどうやって算定するのか、ある程度の経験則や相場はあっても、あいまいなものだ。そういった部分を戦略コンサルが情報収集・プロセス定義して形式化してしまえば、簡単には超えられない情報格差を生み出すことができ「買収の場面では戦略コンサルに頼る」、という状況を作り出せるかもしれない。1000億円の買収をするときに、コンサルに10億払うなど安いものだし、大きなフィーを無理なく獲得できるビジネスチャンスがそこにありそうな気がする。

 

という視点で行くと、エンジニアやデザイナーを雇うのは、開発ケイパをクライアントに提供するためではなく、最新の技術知見を蓄え続けるため、であり、スタートアップに人材を輩出するのは業界の最新の知見をアラムナイを通じて収集するため、と考える事も出来る。

 

うーん、デジタル革命が進むと基本的に技術進化が著しく速いが故に、マクロでみても、技術を買うために買収が増える気がする(Googleのような巨大企業であっても同様で、買収を繰り返す)。そこにフォーカスしまくるって面白いかも