わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

データに基づき人が判断すると後手後手になる

人間が忠実にデータに基づき判断をして、何かの対策を打つと、結局後手後手になってしまう事がある

 

米国の金融当局FRBが、7月の会合で0.25ポイントの利下げを実施した。昨年12月には利上げをしたのに、である。市場では様々な陰謀説も出回っているが、(そういった我々に見えていない特殊な理由がないのであれば)正直Powell議長の失策だと思う。ただ、彼の判断ミスというよりは、彼がとっている判断手法からすると「当然の結果」なのかもしれない。

 

7月のFOMC(“金利を決めようね委員会”)の後の会見でもPowell議長がさんざん強調していたのが、「様々なデータに基づき、総合的に判断する」、つまりFOMCはデータに基づき判断をするという姿勢だ。しかし、この姿勢には落とし穴があると思う。それは、データに基づき判断するという事は、「過去」に対して、あくまで受け身的に反応する事になる、という事だ。なぜ過去になってしまうのか。それはローデータの取得・加工・公表まで、また、人がそのデータを咀嚼し判断するまで、にかかる時間が存在するからだ。

 

昨年12月の段階で、確かに公表されていたデータは米国経済の堅調さを示していたように思う。しかし、それらデータは直近といっても1~2ヵ月前の状態を示したものであり、まさにその瞬間の経済状況を示したものではない。なので、正確には「10月~11月の段階では米国経済は堅調だったかもしれないが、12月時点では分からない」という事だったと思う。実際に市場関係者は年末にかけて急速に経済状況に不穏な空気が漂っている事を肌で感じていたのだと思うし、そんな彼らから見ればその状況での利上げはありえない選択肢だったと思うが、あくまで公表データに基づき判断するというFOMCの視点からすると、「米国経済はOn-track」というふうに解釈せざるを得なかったのだろう。

 

加えて述べておくと、近年各国の金融当局が導入している「フォワドガイダンス」という方法も、このケースではマイナスに働いたと思う。FRBは経済指標によっては12月に利上げをする可能性を8月ごろから示しており、それをPowell議長が「12月に入って経済状況が不穏なので利上げは見送ります」とひっくり返すことは相当の勇気が必要だし、また逆にサプライズとして受け止められ、経済を混乱させていたことも想像できる。

 

このように複数の要因が重なって、失策に繋がってしまったと思うが、実際の経営の現場では、前述のようなタイムラグの存在を理解したうえで、「今この瞬間のデータ」を迅速に咀嚼して判断をしていくことが大切で、そうできる人がいい経営者と評される事が多いように思う。今この瞬間のデータ、とあえて「データ」という言葉を使ったが、今この瞬間を表しているデータはボリュームも少なく、が故に判断の根拠に用いるには弱く、これまでの経験や現場感と組み合わせて判断する必要が出てくるため、よりリアルに表現するとデータではなく「空気」となると思う。つまり、凡人は見落としてしまうような些細な点とこれまでの経験を組合わせて、「空気を読む」事が必要で、いい経営者は常に過去データと「今の空気」で判断をしているように思う。(トレーディングフロアに毎日立っている市場関係者の方が米国経済の変調に気が付きやすいのは、この空気を感じるだけの些細なデータにふれる機会が多いためだろう)

 

もしPowell議長が、その当時の空気を読んで利上げより利下げだ、と判断できていたら名議長と呼ばれていたかもしれないが、説明責任という観点からも、空気といううまく説明できないものを判断基準にしたとはいいずらく、難しい立場だなと本当に思う。

 

空気を読む、これはセンスが問われるが、自分ももっともっと磨きたいスキルだ。