100本ノックの実例1:「頭で理解する」と「できる」の差
前回のエントリーで、ロジカルシンキングの基礎を理解するための資料を共有した。当然のことながら、「頭で理解できている」ことと「実際にそれを実践できる」ことには非常に大きな隔たりがある(これはロジカルシンキングに限ったことではなく、非常に一般的な事だ)。このギャップを埋めるには、ロジカルシンキングを身に着けた人間からフィードバックを受けながらひたすら実践する形式のトレーニングが必須だと考えており、実際にJQ社内では「100本ノック」というトレーニングを行っている。
具体的には、資料の中に記載されているように、「構造化されたメモを書く」という事を毎日繰り返してもらう。構造化されてさえいればなんでもよく、文章のテーマ自体も自由に設定してもらって構わない。これは戦略コンサルファームなどで新卒アソシエイトがOJTの中でやらされる「メモ書き」を模したものであり、粘り強く取り組むことで一定の効果が出ることが実証されている。私もBCGに入社後、2年余りで間違いなく数百本はメモを書いている。どれほど構造化に習熟しても、「1:1」の時間が必要(つまり1時間の会議のメモを書くには1時間かかる)と言われるが、新卒で入社したての頃は1時間の会議に対して3時間くらいかかり、真夜中に四苦八苦した記憶がある。
さて、前述の基礎資料を読んで、頭で理解してもらった上で書かれたあるメモと、それに対するインプットを紹介しておこう。ちなみにこのメモを書いてくれた人は高学歴で頭もよく、資料は十分理解してくれていたが、それでも第1回目のメモは下記の通り質が低かった。これが、まさに「頭で理解できる」ことと「実践できる」ことのギャップであり、ねちねちとインプットを受けることで数十年の人生の中で頭にこびり付いてしまった思考の癖・垢などを少しずつ変えていく、非常に地味な努力が必要なのである。
【インプットを受ける段階のメモ】
緊急かつ重要な行動の後に、緊急ではないが重要な行動を選択していくと成果が上がる(A)
- 緊急かつ重要な行動は、何よりも優先されるので真っ先に手が付けられる(B)
- 緊急だが重要ではない行動は、掛けた時間に対して得られる成果は少ない(C)
・電話対応(D)
・無計画な飲み会参加(E)- 緊急でも重要でもない行動は、成果に繋がらないので選択すべきではない(F)
【インプット】
まず、基本に立ち返ると、構造化を行う目的は「分かりやすくするため」、もう少し具体的に書けば「(相手の)頭に入りやすい形に情報を整理するため」である。極論を言えば、MECEを理解しているか、グルーピングができているかなど、テクニカルなことはどうでもよく、分かりやすく文章が書けていればよいわけである。という観点から、「ぱっと読んですっと頭に入ってくるかどうか」はかなり重要である。
以上を踏まえ、まずは日本語の問題から指摘をしたい:
まず共通認識ができていない言葉を文章の中で使わない、これはコンサルタントとしては基本であり、逆に言えばすべての言葉をきちんと自分で定義できるという事は極めて大切である。という意味で(A)の文で「成果が上がる」とは何を指しているのか?どこにも説明されておらず、全体が曖昧な印象になってしまっていることにつながっている
また非常に細かい日本語であるが、(B)の文で、「行動に手を付ける」といういい方は不自然で、手を付けるなら行動ではなくタスクといった言葉になるのではないか。「日本語がそもそも書けていない」(ブログのエントリーにも書いた)という印象になるので、こういった部分は気を付けるべき。
次に、構造化という観点から行くと、一番の問題は、端的に言えばSo What?が成り立っていないことが致命的である。全体のメッセージである(A)を隠したときに、(B)~(F)の文章を読んで(A)を導けるのだろうか?難しいと感じる理由の一つは、メッセージでは「能動的に重要度を選択しろ」と書かれている一方で、サブメッセージ(B~F)では、4つの選択肢のうち、3つが消去され、受動的に選択する形となっている。これだけを見ても、(A)に「なぜ」と問うた答えが(B)~(F)というのは違和感がある。
その他突っ込みどころもたくさんあり、電話対応(D)は緊急だから大事なんではないのか、とか、無計画な飲み会(E)は本当に重要ではないのかといった事が気になってしまう。
緊急度と重要度で4象限に分けるという事でMECE感を出そうとしたところは評価できるが、結局構造化されている状態とは程遠い。
【修正後のアウトプット】
同じテーマで書き直すのであれば、以下のようにすると少し構造化された感がでる=分かりやすくなるだろう。何が違うのか、違いを十分味わってほしい。
タスクを緊急度と重要度の2軸で整理した時、判断が難しいものが2つある
- 判断が容易なもの:緊急かつ重要、緊急でもなく重要でもないもの
- 判断が分かれるもの:緊急だが重要でない、緊急でないが重要なもの
この時、重要度を重視し、緊急だが重要でないものをいかに簡潔に片づけるかが鍵
- 「緊急」という理由だけで多くの時間を割いてしまいがち
- しかし重要性が低い場合、本質的付加価値にはつながっていない
- なので緊急でなくとも重要性の高いものにより多くの時間を割くことが大切
ではまた明日!