わかるブログ

人生の後半に向かっていくにあたり、自分の引き出しの中身を色々書いて一旦空にし、新たに学びを深めていかざるを得ない環境を作ろうと思って始めたブログ

科学の社会実装が最も遅れている領域

E PRONTO 東京大学中央食堂店。東京大学安田講堂の下あたりにある中央食堂の中二階にあるカフェの正式名称だ。自分が東大の学生だった頃は、ただ中央食堂のメニューが陳列されている味気ない場所だったのだが、いつぞやカフェに改装されたらしく、非常にいい空間だなぁ、と感じて本日2回目の利用である。

 

なぜ心地よい空間なのか。必然と偶然が入り混じってそうなっているのだと思うが、要素を列挙してみると下記のようになった:

偶然的要素(意図せずたまたまそうなった)

  • 下からの照明効果:地下の広い空間に中央食堂が広がっており、その上に浮いているような構造になっているがために、下の中央食堂から上がってくる光にやさしく包み込まれるような感覚になる
  • 天井の低さと下の広さのコントラスト:中二階の天井は低めなのだが、一方で下を見ると広い中央食堂が広がっており、そのコントラストが何とも言えない空間を作り出している
  • ちょうどよい混み具合:利用する時間がたいてい週末午後だからかもしれないが、いつもちょうどよい混み具合だ。すいているわけでもなく、座る場所がないわけでもない、という感じ。安田講堂付近の広場にはいつ行っても主に中国からの観光客と思しき人々がたくさんいるが、まさか下にカフェ・食堂が存在するとは思わないのか、その群衆が流れ込んでくるわけでもなく、いつもちょうどよい感じ

必然的要素(意図してそうなっていると考えられる)

  • 視線が合わないテーブル配置:隣や向かいのテーブルに座る人と視線が極力合わないような配置になっており、あってしまいそうな部分には仕切りが設置されている。明らかに「視線が合わないように」という事を意識して設計されていると考えられる
  • 余裕を持たせた導線設計:テーブル配置と関係するが、導線もよく考えられている、と勝手に理解している。(図がないので言葉で書いても伝わらないが)大型のテーブルの壁側にも(テーブルをくっつけてしまうのではなく)わざわざ導線を確保してあり、どこに座っても閉塞感が少ない
  • 客層のバランス:これは大学の中にあるので当然のことだが、学生が多い。その中に自分のような中年のおじさんや、初老の人々が混じっている感じ。たいてい学生が7~8割くらいで、それ以外が2割くらい。学生は勉強をしている人が多く、今日は隣で哲学の議論をしているグループがおり、ニーチェについて話していたが、若い人が多いとやはり場にエネルギーが生じており、自分のような中年のおじさんにとってはそれがむしろ心地よい

 

こんなことを考えつつ今日は座っていたのだが、常日頃考えている事として、『人間が何を心地よいと感じるか、や、人間がある環境下でどのような心理になりどう行動するか、といった事は、古くから最もよく研究されている分野であるにも関わらず、その成果の社会実装は最も遅れているのではないか』という事がある。

 

社会科学、行動科学、行動心理学、はたまた生命科学など、様々な分野にまたがって研究されている事であるとは思うが、人間の最大の関心事の一つはヒトそのものであって、その思考や行動は最もよく研究対象になっている。一方で、その成果は十分活かされているのだろうか?前述のテーブル配置や導線設計などには、科学的な研究成果かどうかは分からないが、デザイナーの知見や経験知が織り込まれているのかと思うが、、、。

 

逆に言うと、そういった分野での科学的知見を社会実装していく分野には、非常に大きな白地がまだまだ広がっていると考えられ、スタートアップにとっても大きなチャンスなのではないか。昨年広告や他者のエントリーで見かける事が多かった「モチベーションクラウド」というサービスも、まさにそこに切り込んでいると思っており、「モチベーション」というふわっとしている、しかしどの企業も重要でできれば上げたいと何となく考えている、ものを可視化するというのが新鮮に映っているのだと思う。しかし考えてみれば、モチベーションのコントロールの仕方はアカデミック研究のレベルでは色々知見がたまっており、それを咀嚼して実用化していくだけでかなりのインパクトがありそうだ。

 

似たようなことで自分が昔から興味を持っているのはインセンティブ設計である。組織はインセンティブ設計一つでがらりと変わりえるのだが、その設計に科学的知見はあまり反映されていないように思う。経営コンサルにインセンティブ設計を頼むと、「ロジカルに考えて正しそうな」提案(給与テーブルの階段をいじったり)はしてくれても、最新の行動科学/心理学の知見に基づいた(一見直感に反する)提案は出てこなさそうだ。しかしながら、インセンティブ設計をどのように行えばいいのか、困っているクライアントは多く、ニーズも非常に大きそうである。

 

下記のTED Talkはは2009年に公開されたもののようであるが、動画の中で懸念されている状況はここ10年、あまり状況は変わっていないように思う。この分野で何かサービス化できないかな。

www.ted.com